不吉な予感・・・【大喜利】

「月の光が…私を狂わせるっ！あんっあんっ」

薄墨色の天蓋に蒼い月が輝く夜、私と彼女は出会った。

緩やかな風が吹き、雲一つない空によく星の映える、穏やかな夜だった。
窓から見える月があんまり綺麗だったものだから、
ふと何処か静かな場所で月を見たくなり、仕事の手を止めてふらりと外へ出た。
私には珍しい気紛れだった。いや、それは予感だったのかもしれない。

気紛れに出掛けたその場所で、私と彼女は出会ったのだから。


once in a blue moon ……「蒼い月」
海の彼方の遠い異国には、そのような言葉があるという。
不可能、奇跡、神変……表現は何でもいい、
ともかくそれは「空想のように現実的でない事」を意味している。

決して有り得ない蒼い月。
ともすると、私と彼女の出会いもそんなものだったのかもしれない。
私は地上より月を見上げる人狼の王。彼女は月より地を見下ろす天上の兎。
この出会いが奇跡でないとして、何と言うのだろう。


最初に出会った月の見える場所で、私達は満月が上る度に逢瀬を重ねた。
二人の間には、甘い空気も何も無い。
少し離れた場所で、ただ月を見上げて、静かに佇む。
同じ場所に居合わせるだけの関係だったが、私達にはそれで十分だった。

同じ場所で、同じ方角を見て、同じ月を見る。住む世界が違う二人も、ここでは平等だ。
私にはそれが堪らなく嬉しかった。


そんな関係が、幾夜続いただろうか。
今日、夜空にまた蒼い月が上った。この二度目の奇跡は、不吉か、それとも天啓か。
分からない、分からないが……この蒼い月は心が湧き立つほどに美しい。
今ならばこの想いを彼女に打ち明けられる気がした。

何時もの場所で、彼女は待っていた。私と目があった時、彼女は驚いたような顔をしていた。
そう言えば、こんな風に面と向き合うのは初めてだったかもしれない。
今更ながらに面映いような心持ちがして、私は逃げるように視線を逸してしまった。
彼女も釣られたように同じ方角に目を向ける。

そこには、煌々と輝く蒼い月があった。
何時も此処で私達が見ていた月だ。私達を見ていた月だ。
あぁ、やはり、彼女と見上げる月は、美しい。

「月が綺麗ですね」
ふと、そんな言葉が口をついて出た。
幾千の言葉を用いようと、私が彼女に抱くこの想いを表す事は、きっと出来ないだろう。
だからせめて、一言に万感の想いを込めた。伝わっただろうか、私の心は。

彼女は暫く気を落ち着けるように目を瞑っていたが、
やがて、すっと息を吐き、私と目を合わせると、同じく万感の想いを込めてこう言った。


【死んでも嫌】


あれ、おかしくない？　待て待て待て。落ち着いて考えよう。
「月が綺麗ですね」は夏目漱石が「I love you」を日本語に訳した言葉で、
遠回しな愛の告白として有名だ。そしてその返しは「死んでも良いわ」だ。
「死んでも嫌」って、今、あれ？　いや、あれ、何か「死んでも嫌」って聴こえたような。
あっれぇーおっかしぃなぁー。

「待って、いや、待ってくれ。私達はずっと一緒にいたじゃないか。
満月が上る度にこの場所で。ずっと同じ月を見ていた。私は君の事を……」

そう言うと、彼女は何故か何とも形容しがたい目つきになった。

「ずっと居たの、此処に……？」
「そうだ、ずっと君を見つめていたんだ」
「何言ってるの貴方……おかしいじゃない……だって、此処、此処……


【女子更衣室】よ」


……？　それの何がおかしいと言うのだろう。
あの日の夜、私は一目見た君に焦がれて後をつけた。
そしてこの会社に務めている事と、満月の晩には此処にいる事を知った。
私は何時も君を後ろのロッカーの中で見つめていた。それだけのことじゃないか。

待て、何故ブザーを鳴らすんだ。やめろ、話せば分かる。凄い大きい音するねそのブザー。
いや、そうじゃない。その屈強なオッサンどっから湧いたの。来るの速ぇーよ。
え、最近不審者が目撃されてた？　彼女の周りをうろついてた？　何てヤツだ。許せない。
いや、違うんだって。話を聞いてください。私不審者じゃない。私ノット不審者。
私と彼女は愛し合って……いや、ちょっ、アッーーーーーー！


こうして、私の物語は終わった。（社会的に）


なんか大喜利ってこんなんじゃない気がする。

あぁ~！今宵は良い月だ…、こんな日こそ塩を肴に酒が進む！





こんなだから脳卒中で死ぬんだよ、儂

「あぁ~！今宵は良い月だ…、陽は落ちた...貴様の命も没する時だ!!」

月の輝きが、じゃなかったっけ？

「月の光が…私を狂わせるっ！ゴメン嘘、関係なく狂ってた」